サーベイの自由記述や管理職へのヒアリングに、「風通しが悪い」という声が並びます。人事担当者であれば、こうした場面に向き合った経験があるのではないでしょうか。
声の中身は、「会議で意見を言っても流される」「悪い報告をすると嫌な顔をされる」といった、日々の小さな経験です。経営層へ報告するには、原因を整理し、打ち手まで示す必要があります。
本記事では、風通しの悪い組織に共通する特徴と原因を、構造の面から整理します。人事が着手できる5つの改善ステップも、手順ごとに紹介します。
風通しとは、情報が上下左右に流れ、役職や年次に関係なく意見を出せる状態を指します。風通しの悪い組織では、情報が途中で止まり、意見は胸の内にとどまります。
見るべきなのは、制度の有無よりも、社員が「言っても無駄だ」と感じているかどうかです。会議体や目安箱が整っていても、使われなければ風は通りません。
よく似た言葉に、心理的安全性があります。両者は同じものではありません。
風通しは、現場の社員が日々感じる「状態」です。心理的安全性は、発言しても不利益を被りにくいという、その状態を支える「土台」にあたります。風通しの悪さは、心理的安全性の低さに加えて、情報の経路や部門間の壁といった要因が重なって生じます。
心理的安全性の誤解については、心理的安全性の勘違いで起こる組織の問題で詳しく解説しています。
風通しの悪さは、日常の行動に表れます。人事が現場を観察するときの手がかりとして、4つの特徴と、確認用のチェックリストを紹介します。
役職者や古参メンバーが話し続け、若手は議事録を取るだけで終わります。こうした会議は、典型的なサインです。意見を出しても採用されない経験が積み重なると、発言は次第に偏っていきます。
会議に絞った原因と対策は、会議で本音が出ないのはなぜ?にまとめています。
納期の遅れやクレームの予兆は、上司の耳に入るのが遅れます。報告した人が叱責される場面を見た社員は、解決の見通しが立つまで黙る行動を選ぶためです。
問題が表面化したときには、すでに取り返しのつかない段階に入っていることもあります。
営業が持つ顧客の声が開発に届かなかったり、人事が決めた制度変更が施行の前日にようやく現場へ伝わったりします。部門ごとに情報を抱え込む状態です。
縦割りが生まれる構造は、組織の縦割り解消で整理しています。
エン・ジャパンの「本当の退職理由」調査(2024年)に、退職経験者4,658名が回答しています。54%が「会社に伝えなかった本当の退職理由がある」と答えました。
本当の退職理由の1位は「人間関係が悪い」で、46%でした。伝えなかった理由の1位は「話しても理解してもらえないと思ったから」で、こちらも46%です。
辞める場面でも、本音は会社に届いていません。在職中は、さらに言い出しにくい人がいる可能性があります。
特徴だけを見ると、社員の性格や意識の問題に見えるかもしれません。実際には、発言しにくくなる構造が先にあります。
指示を出す側と受ける側が固定された組織では、意見が「反抗」や「言い訳」と受け取られがちです。経営の意図は速く伝わっても、現場の知見は上へ流れません。一方通行の経路が、風通しを損ないます。
トップダウンの功罪は、トップダウン型マネジメントは古い?で解説しています。
評価項目が目標達成度や担当業務の成果に偏っていると、問題提起や他部門への働きかけは評価の外に置かれます。発言すれば工数が増えるだけで、見返りがありません。
この環境で黙るのは、合理的な判断といえます。意識を変えるよう呼びかけても、行動は変わりにくいでしょう。
部門ごとにKPIが設定されていると、他部門への情報提供は自部門の数字に結びつきません。出しても得をしない情報は、共有されなくなります。
連携の進め方は、部門間連携を強くするには?も参考になります。
プレイングマネージャーとして自身の数字を抱える管理職は、部下の話を聞く時間を確保しにくくなります。1on1が予定表にあっても、進捗確認だけで終わることがあります。
聞く時間がなければ、部下は「忙しそうだから後にしよう」と判断し、相談を先送りします。
放置した場合の影響は、3つの場面に表れます。
1つ目は、離職です。前述の調査で、本当の退職理由の1位は人間関係でした。不満が在職中に共有されなければ、改善の機会がないまま人が去ります。
2つ目は、問題の発覚の遅れです。小さな不具合や不正の兆しが、上司や管理部門に届きません。発覚した時点では、対応にかかる負担が膨らんでいます。
3つ目は、変革の停滞です。新しい制度や方針を導入しても、現場の疑問や反対が出ないまま、形だけ受け入れられます。実行の段階で止まるのは、このためです。
改善は、現状把握から始めて、仕組みの変更へ進める順序が進めやすくなります。人事が主導して動かしやすいものから、5つの手順を紹介します。
まず、風通しの悪さがどこに集中しているのかを確かめます。全社一律の施策では、効果が薄まるためです。
結果を共有しないまま終えると、「どうせ変わらない」という不信を強めます。共有までを1セットで進めましょう。
発言できるかどうかは、聞き手の反応で決まります。経営層と管理職に、受け止め方の具体的な型を渡します。
管理職研修にロールプレイを組み込み、実際に言葉に出して練習すると、現場で使いやすくなります。
会議と1on1は、発言の機会が最も多い場です。ここで仕組みを変えると、日々の経験が変わります。
役職の高い人が最後に話すだけでも、同調の影響を抑えやすくなります。
月1回、各部門の取り組みと困りごとを15分ずつ共有する場を設けます。参加者には、部長だけでなく課長や担当者も加えます。
制度変更や組織変更は、決定の背景を添えて、施行の2週間前までに現場へ伝えるルールにします。結論だけを渡すと、現場は受け身になるためです。
評価項目に、「課題の早期報告」「他部門への情報提供」「改善提案」を加えます。行動が評価されれば、発言は割に合う選択に変わります。
導入時は、提案の件数ではなく、提案を受けて何が変わったかで測ります。件数を競わせると、形だけの提案が増えるためです。
5つの手順を進めても、変化が表れない組織があります。制度や会議体を整えても、社員の前提が変わっていないためです。
たとえば、経営層が「何でも言ってほしい」と呼びかけても、過去に異論を述べた人が異動になった記憶は残っています。社員は、制度よりも過去の出来事を手がかりに、発言してよいかを判断します。
この前提を動かすには、経営層、管理職、現場が同じ場で話し、お互いの見方を知る機会が欠かせません。対話を通じて関係性から見直す取り組みは、組織開発と呼ばれます。
人事だけで進めると、社内の利害や遠慮が入り込み、客観的な分析や場の設計が難しくなります。第三者の視点を取り入れる選択肢として、組織改革コンサルを活用する組織もあります。
風通しの悪さは、社員の性格や意識の低さだけで起きるものではありません。上司への意見を反抗とみなす空気や、発言が評価につながらない仕組み、部門をまたぐ情報の壁など、発言しにくさを生む組織の構造が原因になっているケースが多くあります。
改善には、匿名サーベイによる現状把握、管理職の受け止め方の見直し、会議や1on1の再設計、部門横断の共有の場づくり、評価への反映を、人事が連動させて進めることが有効です。ただし、社内だけでは客観的な分析や設計が難しい場面もあります。
組織改革コンサルの力を借りるのも選択肢の一つです。第三者が加わると、社内では指摘しにくい課題も整理しやすくなります。
支援の内容は会社ごとに異なるため、各社の支援領域や実績を比較し、自社の課題に合うパートナーを探してみてはいかがでしょうか。