Gallupの調査によると、日本の従業員エンゲージメント率はわずか6%で、世界平均(23%)を大きく下回り、139カ国中最低水準にあります。
エンゲージメントの低さと密接に関連するのが「当事者意識の欠如」です。
「研修を実施しても現場の意識が変わらない」「社内評論家が多く、誰も自分事として動こうとしない」──こうした課題を抱える人事・組織開発担当者やマネージャーは多くいます。
当事者意識の向上は、しばしば「個人の意欲の問題」として語られます。しかし、その本質は組織の構造や文化にあります。個人への啓発や研修だけでは解決しない理由と、組織レベルで主体性を根付かせるための実践アプローチを解説します。
「当事者意識」と「責任感」は混同されやすいですが、その性質は大きく異なります。
責任感は道徳観や意思の問題です。「責任を果たすかどうか」は本人が意識的に選択できるため、責任感の有無は比較的自覚しやすいといえます。一方、当事者意識は「自分が状況の一部になっている」という認識、すなわち自分という存在が現在生じている事象にどのような影響を与えているかに気づいていることを意味します。
重要なのは、「実際に当事者であること」と「自分が当事者であると意識していること」の間にギャップが生じうる点です。実際の当事者であるにもかかわらず、そのことに意識が及んでいないという状況は、組織内で頻繁に起きています。
この「責任感と当事者意識の違い」を組織として正確に区別することが、問題解決の出発点となります。
当事者意識向上の難しさは、「自分が当事者意識のない状態にある」と本人がほとんど気づけない点にあります。
人間には物事を認識できる限界──自分が他者に与えている影響を完全には把握できないこと──があります。例えば、部下へのパワハラを疑われた上司の多くが「部下のためを思って指導していた」と訴えます。自分が相手に与えている影響の実態を、自分自身が完全に感じ取ることはできないのです。
社内評論家の発言、「会社が何とかすべき」という他責的な態度、部門間の対立──これらも同じ構造に起因しています。そのため、個人への指摘や啓発は効果を発揮しにくく、組織全体としての仕組みによる対応が求められます。
当事者意識の欠如を「あの人は他責思考だから」「やる気がないから」と個人の資質に帰結させることは、問題を深刻化させます。主体性やオーナーシップは、個人の性格や意欲よりも、組織の文化・構造・マネジメントスタイルに大きく左右されます。
問題や課題を客観的に分析してコメントを述べる「評論家・分析家姿勢」は、組織の中に静かに広がりやすいものです。
「会社はもっと人材育成に力を入れるべきだ」「部門間の連携が取れていないのは経営の責任だ」──こうした発言が繰り返される環境では、社員は「自分が変わる必要はない、問題を起こしているのは他者や組織だ」という姿勢に慣れていきます。さらに、そうした発言をしている本人自身が評論家になっていることに気づかないという状況も生まれます。
ダニエル・キムの「成功循環モデル」が示すように、組織の成果は「関係の質」から始まります。評論家・分析家姿勢が蔓延した職場では関係の質が低下し、自分事化して考える意欲も生まれにくくなります。
他責文化が生まれやすい組織には、以下のような特徴が見られます。
こうした環境では、たとえ意欲のある社員であっても「自分には変えられない」と感じやすくなり、エンゲージメントと当事者意識は徐々に失われていきます。
当事者意識を向上させるには、まず「自分の行動が組織や顧客にどのような影響を与えているか」が実感できる状態を作ることが重要です。
目標設定の際に「この目標が達成されると何がどう変わるのか」を言語化し、個人の役割と組織全体の成果をつなぐことで、自分事化した感覚が生まれやすくなります。OKR(Objectives and Key Results)などのフレームワークは、このつながりを可視化する手段として有効です。
評論家・分析家姿勢から当事者姿勢への転換は、知識の吸収や反復研修では起こりにくいものです。必要なのは、「自分が状況の一部であり、問題の一因となっている可能性がある」という気づきを促す体験と内省のプロセスです。
ビジネスシミュレーションゲームなどの体験型手法は、自分の行動が未来の状況を左右するという構造認識を深める上で効果的とされています。参加者が評論家の視点から抜け出し、当事者として課題に向き合うための土台を作ることが期待できます。
また、こうした意識転換は個人ではなく集団で取り組むことが重要です。全員が同じプロセスを経ることで、組織全体の主体性が高まり、変革に向けた協働的な動きが生まれやすくなります。
一時的なワークショップや研修で意識が変わったとしても、日常業務に戻れば元の思考パターンに引き戻されやすいものです。当事者意識を組織に定着させるには、対話と内省を日常化する仕組みが必要です。
マネージャーが1on1ミーティングを「指示・報告の場」ではなく「自分の役割・影響に気づく場」として設計すること、定期的な振り返りの場を設けることが、継続的な意識向上につながります。
オーセンティックワークス株式会社は、当事者意識の向上に特化したソリューションを提供しています。
その核心は、ビジネスシミュレーションゲームを通じた「体験的な気づき」にあります。ゲームを通して、自分が良かれと思って行った行動が未来の状況に影響を与えるという構造認識を深め、現状を振り返る土台を構築します。
次に、「評論家・分析家姿勢から当事者姿勢への意識転換プロセス」を参加者が共同作業として辿るプログラムを提供しています。自分自身を取り巻く現状を棚卸しし、構造を整理するステップを経ることで、「自分が問題の一因となっている」という自覚と、協働的に問題解決を図る意欲が生まれることが期待されます。
このアプローチによって、以下のような変化が期待できます。
オーセンティックワークス株式会社は、意識変容によって個人と組織の変革を実現することを目指す、組織変革コンサルティング会社です。成人発達理論やシステム思考などの学術的理論をベースに、表面的な行動変容ではなく「思考レベルの変容」を支援することを特徴としています。
研修やワークショップの実施にとどまらず、組織の構造的な問題に踏み込んだ介入を行うことで、当事者意識・視座向上・エンゲージメント向上といった、従来の人材育成では解決しにくい課題に取り組んでいます。
当事者意識の低さは、個人の意欲や性格の問題ではなく、組織の文化・構造・マネジメントに起因することが多くあります。施策が単発で終わり効果が続かない場合、個人への働きかけだけでなく、組織全体の構造に目を向ける視点が求められます。
主体性の高い組織文化は、体験と内省のプロセスを継続することでしか育まれません。外部の客観的な視点を持つコンサルタントの支援が、こうした組織文化の変革を加速させることも多くあります。