昇進候補として名前が挙がる人材が、ここ数年ずっと同じ顔ぶれだと感じていませんか。研修や選抜の仕組みは整えているのに、経営視点で判断できる人材が育っている実感が持てない。こうした課題は、育成プログラムだけでなく、候補者の見極め方や実務経験の与え方、経営陣の関わり方など、複数の要因が重なって生じる場合があります。
本記事では、次世代リーダーが育たない代表的な原因を整理し、選抜基準や育成プロセスを見直す際のポイントを解説します。なお、ここでいう「次世代リーダー」は、社長など特定の後継者だけでなく、将来の経営幹部や重要ポストを担う候補者を含むものとして扱います。
「次世代リーダーが育たない」という課題の現れ方は、企業によって異なります。まずは、自社がどの状態に当てはまるか確認してみましょう。
いずれか一つでも当てはまる場合、選抜基準や育成方法、候補者の配置・評価などを見直す余地があるかもしれません。
次世代リーダーが育たない背景には、複数の要因が重なっていることがあります。ここでは代表的な4つの原因を取り上げます。
営業成績やプロジェクトの完遂度など、現在の職務における成果は評価しやすい指標です。一方で、現在の職務で高い成果を上げる能力と、将来の経営幹部や重要ポストに求められる能力は、必ずしも同じではありません。
たとえば、担当業務で高い成果を上げている人材であっても、全社的な視点で優先順位を判断したり、異なる利害を持つ関係者を巻き込んだりする経験が十分とは限りません。上位ポストでは、担当領域の成果だけでなく、戦略的な判断、組織を動かす力、事業や財務に関する理解など、複数の能力が求められます。
そのため、候補者を選ぶ際には、現在のパフォーマンスだけでなく、将来の重要ポストに必要な人材要件を明確にしたうえで、多面的に評価することが重要です。
管理職研修やリーダーシップ研修は、知識や考え方を学ぶうえで有効な手段です。一方で、経営上の意思決定に必要な能力は、実際の業務や役割を通じて身につける側面もあります。
たとえば、部門横断のプロジェクト、重要顧客との交渉、新規事業の検討、経営層への提案など、通常の担当業務よりも広い視点や難しい判断が求められる機会を計画的に与える方法があります。
研修と実務経験を別々に考えるのではなく、研修で得た知識を実際の業務で活用し、その結果についてフィードバックを受けるというサイクルを設計することが重要です。
企業によっては、若手向け研修や既存の経営幹部への継承準備に比べて、将来の重要ポストを担う可能性がある中堅層への育成機会が十分に設けられていない場合があります。
ただし、次世代リーダーの候補者を年齢だけで決める必要はありません。重要なのは、将来のポストに必要な人材要件を明確にし、その要件を満たす可能性のある人材を早い段階から候補者として把握することです。
候補者には、部門横断の業務、マネジメント経験、経営層との対話機会など、現在の役割では得にくい経験を計画的に与えることが考えられます。年齢層ごとに一律の育成施策を用意するのではなく、候補者の経験や能力、将来の役割に応じて育成内容を変えることが重要です。
経営陣自身が成果を出した当時のやり方や価値観が、現在の人材要件にも影響することがあります。たとえば、創業期にトップダウン型の意思決定で事業を成長させた企業であっても、事業規模や市場環境が変化すれば、後継者に求められる能力やリーダーシップのあり方も変わる可能性があります。
市場環境や事業モデルが変化しているにもかかわらず、過去の成功パターンを評価軸として使い続けると、現在および将来の事業に必要な人材を適切に見極められない可能性があります。
候補者の選抜では、「現在の経営陣に似ているか」ではなく、「将来の事業環境と重要ポストに必要な能力を備えているか」という観点から人材要件を見直すことが大切です。
候補者不足を放置すると、育成の遅れだけでなく、経営幹部の交代や事業承継などの局面で問題が顕在化する可能性があります。
後継者育成には相応の時間が必要です。特に中小企業の事業承継では、中小企業庁が後継者の育成を含む事業承継の準備に「5~10年程度」かかる(※)としています。必要な期間は企業規模や事業内容、候補者の経験、承継の方法などによって異なります。
経営交代の直前になって候補者を探し始めるのではなく、重要ポストや後継者候補を早い段階から把握し、必要な経験を計画的に積ませることが重要です。
候補者を抜擢しても、新しい役割に必要な権限や周囲の協力体制が整っていなければ、本人だけに負担が集中する可能性があります。
特に、これまで同僚だった人材を管理職や経営幹部候補として抜擢する場合には、本人への役割期待だけでなく、関係する管理職や部門との役割分担も整理する必要があります。抜擢後のフォローやフィードバックまで含めて育成プロセスを設計しましょう。
次世代の候補者が十分に育っていない場合、既存の管理職や経営幹部が長期間にわたって業務や意思決定を担い続けることがあります。
負荷が慢性化すれば、マネジメントの質や組織運営に影響する可能性もあります。次世代リーダーの育成は、将来の後継者を確保するだけでなく、組織として意思決定を担える人材層を厚くするという観点からも考える必要があります。
次世代リーダーの育成では、研修だけを切り離して考えるのではなく、重要ポストに必要な人材要件、候補者の選抜・評価、実務経験、フィードバック、育成状況の見直しまでを一連のプロセスとして設計することが重要です。
人事部門として着手しやすい具体策は次の5つです。
現在の数字上の成果だけでなく、将来の重要ポストに必要な能力を明確にし、候補者の評価項目に組み込みます。
たとえば、戦略的な思考、意思決定力、組織を動かす力、周囲を巻き込む力、事業・財務に関する理解などが考えられます。360度評価やアセスメントセンターなどの手法を組み合わせ、複数の視点から候補者を評価する方法もあります。
重要なのは、評価手法そのものを目的にするのではなく、「将来のどのポストに、どのような人材が必要なのか」という要件から評価項目を設計することです。
研修で得た知識を実務で活用することで、理解を深めたり、意思決定の経験を積んだりする機会をつくれます。
部門横断のプロジェクト、新規事業の検討、重要顧客との交渉、経営層への提案など、現在の役割よりも広い視点や難しい判断が求められる仕事を意図的に経験させる方法があります。こうしたタフ・アサインメントを行う場合は、単に業務負荷を高めるのではなく、本人の成長課題と将来のポストに必要な能力を踏まえて役割を設計することが重要です。
また、任せた後に経営層や上司がフィードバックを行い、経験から何を学んだのかを振り返る機会を設けると、育成効果を高めやすくなります。
次世代リーダー候補を年齢だけで区切るのではなく、将来担う可能性のあるポストや現在の能力・経験に応じて育成機会を設計します。
たとえば、事業部門の候補者には部門横断の経験を、専門職出身者には組織マネジメントや事業・財務に関する経験を与えるなど、個々の育成課題に応じて内容を変える方法があります。
研修、配置・異動、プロジェクトへのアサインメント、経営層との対話などを組み合わせることで、候補者が将来の役割に必要な経験を計画的に積めるようにします。
候補者を抜擢する際には、本人に期待する役割や責任だけでなく、必要な権限や周囲との役割分担も明確にします。
関係する管理職や部署には、業務上必要な範囲で役割期待や意思決定の範囲を共有し、候補者が新しい役割を遂行しやすい環境を整えます。候補者本人だけを変えるのではなく、組織側の受け入れ体制も合わせて整えることが重要です。
経営陣、人事部門、関係部門など、次世代リーダー育成に関わる各主体の責任と役割を明確にします。
候補者ごとに、現在の能力、今後必要な経験、育成施策、評価時期などを整理し、定期的に進捗を確認します。そして、育成結果を踏まえて候補者の評価や育成計画そのものを見直します。
サクセッションプランは、重要ポストの特定、人材要件の設定、候補者の選抜・評価、育成、進捗確認、計画の見直しなどを含む一連の取り組みとして捉えることができます。本記事では、その中でも特に「候補者をどう見極め、どう育てるか」という選抜・育成の部分に焦点を当てています。
経営層自身の意識改革や、サクセッションプランの設計と合わせて進めることで、候補者の育成を一時的な研修施策で終わらせず、継続的な人材マネジメントにつなげやすくなります。
次世代リーダーの育成では、候補者の選抜、アセスメント、研修、配置・異動、経営陣によるフィードバックなど、複数の施策を組み合わせる必要があります。社内だけでは専門性や客観性の確保が難しい場合には、外部の専門家を活用する方法もあります。
組織開発や人材開発を支援するコンサルティング会社には、アセスメントによる候補者評価を得意とする会社、タフ・アサインメントなど実務経験を活用した育成プログラムを提供する会社、経営層や候補者との対話・コーチングを重視する会社など、さまざまなタイプがあります。
外部サービスを選ぶ際は、単に研修内容だけを見るのではなく、自社が抱えている課題が「候補者の選抜」「人材要件の定義」「育成機会の設計」「経営陣の関与」「育成後の評価」のどこにあるのかを整理したうえで比較するとよいでしょう。
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次世代リーダーが育たない背景には、研修プログラムの不足だけでなく、将来の重要ポストに必要な人材要件が明確になっていないこと、候補者の選抜基準が現在の実務成果に偏っていること、必要な実務経験を計画的に与えられていないことなど、複数の要因があります。
また、経営陣が過去の成功パターンをそのまま人材評価に用いている場合には、将来の事業環境に必要な能力を持つ人材を見落とす可能性があります。候補者を「現在の経営陣に似ているか」ではなく、「将来の重要ポストで成果を出すために必要な能力を備えているか」という観点から評価することが重要です。
次世代リーダー育成では、候補者の選抜だけで終わらせず、研修、配置・アサインメント、経営層からのフィードバック、育成結果の評価までを一連のサイクルとして設計しましょう。
経営交代や事業承継への備えに不安を感じている場合も、まずは重要ポストと必要な人材要件を整理し、現在の候補者とのギャップを把握するところから始められます。候補者の選抜基準と育成プロセスを継続的に見直すことが、将来の経営を担う人材層を厚くする第一歩となります。